オリエンに“スマートさ”はいらない!惜しみない情報共有こそが、最善の提案を引き出す

広告主、メディア、広告会社、クリエイティブ、アカデミア。それぞれ異なる専門性を持つプロフェッショナル同士の交流と議論を生み出し、分断のない全体最適なマーケティングの実現を目指すBORDERLESS MARKETING COMMUNITY(BMC)。そのコミュニティの会員が一堂に会する定期イベントの第6回が2023年5月17日(水)にオンラインで開催された。

イベントは、各領域の有識者が登壇する「セミナー」と、登壇者と参加者双方向のコミュニケーションを通じて実践的な知見を創出する「ラボ」の二部構成で行われた。本記事では、セミナーの内容の一部をレポートする。

イベント登壇者

【登壇者】

松浦良高(まつうら・よしたか)氏
株式会社STRATEGY X 代表取締役CEO・ストラテジックプランニングディレクター/信州大学特任教授

博報堂、上海博報堂、TBWA/HAKUHODO、マッキャンエリクソンの戦略プランニング本部長・エグゼクティブプランニングディレクターを経て、2021年4月に起業。20年以上一貫して、大手広告会社のブランド・マーケティング戦略の職種に携わり、国内外の企業の業務に従事。特に、ブランド戦略や、グローバル関連の戦略構築を得意としている。これまでに合計約100以上のブランドの戦略立案に関わっている。

松田 健(まつだ・けん)氏
The Breakthrough Company GO クリエイティブディレクター 

ADKを経て、2020年GOにジョイン。ファミリーマートやケロッグ、JINSなどの大企業を手がける一方、スタートアップも数多く担当。サブカルチャーからテクノロジーまで幅広い知識を武器に、経営層と会話しながらブランド構築することを得意とする。「事業成長に効くクリエイティブ」がモットーで、担当企業の株価・評価額アップが喜び。コンペ勝率は約70%を誇る。

 

※モデレーター

平尾喜昭氏
株式会社サイカ 代表取締役社長 CEO

 

提案の質は、オリエンの質で決まる

広告主が広告会社に提案を求める際に、前提条件や制約条件を伝える「オリエン」。良い提案は、良いオリエンから生まれる――そう言っても過言ではないほど、オリエンの内容が提案の内容を大きく左右し得ることは、広告主/広告会社双方が強く認識しているだろう。

今回のセミナーのテーマは「期待を超える提案を獲得するための『最強のオリエン』とは」。

BMC理事を務める株式会社サイカの平尾喜昭氏は、広告主側からよく聞かれる問題意識について次のように話す。

「日々多くの広告主企業と関わる中で、『広告会社から納得のいく提案を受けられない』『オリエンで伝えた内容と提案の内容に齟齬が生じる』といった悩みの声をよく聞きます。しかし、オリエンを客観的に見てみると、『この内容では、齟齬が生じても仕方がないのでは? 驚きのある提案が出てこなくても無理はないのでは?』と思ってしまうことも少なくないのが実情です」(平尾氏)

とは言え、広告主企業にとって、オリエンのスキルは磨きづらいことも事実だ。特に国内では、複数の企業を渡り歩くマーケティング担当者はまだ少数派で、他社のオリエンの様子をうかがい知ることも、普遍的なノウハウ・テクニックを身につけることも容易ではない。

こうした状況を受けて、今回のセミナーテーマが設定された。これまでに数多くのオリエンを受けてきた広告会社側のプロフェッショナル2名から「良い提案を生む、良いオリエンの極意」を学ぼうという企画だ。

一人目の登壇者は、博報堂やTBWA/HAKUHODO、マッキャンエリクソンなどの大手広告会社にて、20年以上にわたり一貫してブランド・マーケティング戦略立案に従事してきた松浦良高氏。講演内では、国内外100以上のブランドの戦略立案に携わってきた経験から得た気づきが数多く共有された。

もう一人は、ADKを経て、現在はThe Breakthrough Company GO(以下、GO)のクリエイティブディレクターを務める松田健氏。「コンペ勝率70%」という業界屈指の実績を誇りつつも、いま広告業界で行われているコンペには問題意識を持っており、冒頭で次のように投げかけた。

「いまのやり方のままでは、コンペから良い提案が生まれる可能性は低く、それはオリエンの内容によるところも大きいと考えています。これまでに上手くいったケースと照らし合わせながら、広告主と広告会社の理想的な関係性を考えていけたら」(松田氏)

迷いや悩みも含め、情報は惜しみなく提供しよう

今回のセミナーには、参加者からBMC史上最多の事前質問が集まった。特に多かったのが「期待を超える提案を生み出すための“より良い”発注方法」と「広告主と広告代理店が目指すべき理想の関係性」に関するもの。登壇者2人にこれらの質問を投げかけながら、オリエンの具体的なノウハウを探っていった。

Q1. 広告主と広告会社で認識のズレを起こさないポイントは?
A1. オリエン後にコミュニケーションを重ねよう

「広告主と広告会社で認識のズレを起こさないポイントは?」との質問に対し、まず「ズレは起きるもの」という前提に立つべきだと松田氏は指摘した。社内で日常的にコミュニケ―ションをとっている間柄であっても、認識のズレは決してゼロにはならない。ましてや、初めて仕事をする者同士であればなおさらだ。そこで松田氏が重視しているのが「アジャイル(※)に進めていく」ことだという。

「考えた案は、プレゼン本番を待たずにクライアントにぶつけてみるようにしています。認識のズレを軽減する上では、オリエン後のコミュニケーションの頻度をいかに上げるかが重要だと考えているんです。またコンペの場合、案は『提案後に変わっていく』ことを前提に提出します。コンペは、案を選んでもらう場ではなく、共に試行錯誤を重ねていくパートナーとして選んでいただく場と位置づけています」(松田氏)

オリエン後のコミュニケーションを重視する点は、松浦氏も同様だ。外資系広告会社では、初期段階のアイデアをクライアントに非公式にプレゼンテーションする「Tissue Meeting(Tissue Session)」を行うのが珍しくないという。このミーティングは、アップル社の伝説的CM「1984」を手がけたジェイ・シャイアット氏が始めたとされている。

「最終プレゼンに向けて一直線に進めるのではなく、クライアントと認識を擦り合わせながら進めていく意識を持ち、そのためのプロセスを設計することが大切です」(松浦氏)

※アジャイル:「素早い」「機敏な」という意味。ソフトウェアやシステムの開発手法の一つである「アジャイル開発」では、「計画→設計→実装→テスト」といった工程を機能単位の小さなサイクルで繰り返すことで、リスクを最小化しながらスピーディに開発を進めていくことができる。

Q2. オリエン時に抜けがちな説明項目や資料掲載内容は?
→A2.  解くべき課題を正しく設定するための「背景情報」が重要

広告主がオリエン時に押さえておくと良い情報として、松浦氏は「ビジネスの状況」と「過去のデータ、過去の成功/失敗エピソード」の2つを挙げた。

ビジネスの状況」とは、広告主企業が抱えている課題や、目指している大きな目的を指す。キャンペーンやプロジェクトを実施する背景と言い換えることもできるだろう。こうした情報は、戦略プランナーやクリエイターが「解くべき課題を正しく設定する」ために欠かせない。そして「過去のデータ、成功/失敗エピソード」は、過去と同じような提案をしたり、過去と同じミスを重ねたりといったことを避け、より良い提案につなげていくために有効だという。

「戦略プランナーやクリエイターは、問題解決に対して高い専門性と意欲を持つプロフェッショナルです。『これが課題です』とズバリ提示されるより、背景情報を踏まえて課題設定から取り組めるほうが、やりがいを感じる人が多いと思います」(松浦氏)

松田氏は、プレゼンに向けて必ずインプットする情報として「企業・ブランドの歴史」と「経営層のインタビュー記事や著作物」の2つを挙げた。前者は企業・ブランドの人格をつくるもので、後者は企業・ブランドが向かっていく方向性を示すもの。これらは、クリエイティブアイデアを考える上で重要な指針になると話す。

松浦氏もこれに賛同する。企業・ブランドの歴史や創業者の考え、それらが反映された理念やパーパス(※)は、ビジネス課題の解決方法を考える上でも有用な情報だという。

「その企業・ブランドが社会においてどのような存在なのか、何を為し遂げたいのか。こうした情報は、実は広告主企業の社員でも意外と知らないことが多いものです。調べたことをオリエンでお話ししたり、プレゼン内容に反映させたりすると、『感動しました』と言っていただくこともあります」(松浦氏)

※パーパス:「目的」「目標」を指す言葉。近年のビジネスシーンでは、企業・ブランドの社会的な存在価値・存在意義を意味する言葉として使われることが多い。

Q3. どんな情報をどこまで伝えるべきかの“さじ加減” は?
→A3. “さじ加減”は考えず、情報は惜しみなく伝えよう

どんな情報をどこまで伝えるべきか、情報共有の“さじ加減”に迷う声も多かった。松浦氏は、“さじ加減”は考えず、伝えられることはすべて伝えたほうがいいと話す。
 
「外資系広告会社は、できるだけ多くの情報を提供いただけるよう、オリエン段階から広告主とNDA(秘密保持契約)を締結することが多いです。オリエンはポイントを押さえることも重要ですが、細かい情報もAppendix(補足資料)として付加いただけると、とても参考になります」(松浦氏)
 
一方で、エグゼキューション(具体的な施策や表現)については、あまり意見・要望を言いすぎないほうが望ましいというのは、両氏共通の見解だ。あらゆる条件を細かく決め込むことは、提案の幅を狭める結果につながりかねない。
 
「GOでは『我々は、業者ではなく医者であるべき』と話しているんです。皆さん、医者に対して『こういう症状なので、この薬を使って治してください』とは言いませんよね。『風邪っぽいんです』という言葉を鵜呑みにするのではなく、本当に風邪かどうかを見極めた上で、最適な解決策を導き出すのが僕らの仕事です」(松田氏)
 
最適な解決策にたどり着くための最短ルートは、広告主が「現在の課題(As Is)」と「なりたい姿(To Be)」を共有すること。「なりたい姿(To Be)」は、売上目標やKPIではなく、「人や社会にこんな価値をもたらす企業・ブランドになりたい」という理想像だという。加えて、何らかの制約がある場合は、それも率直に伝えてほしいと話す。
 
「例えば、『予算は度外視で提案してください』と言われて、上手くいった試しはありません(笑)。制約があるからこそ良いアイデアが出ることもありますから、ぜひ隠さず共有いただきたいです」(松田氏)

Q4. 効率よく自社の課題感を伝えるコツは?
→A4. 効率は考えず、課題整理から一緒に進めていこう

課題感を上手く言語化したり、整理したりすることに苦手意識を感じている人も多いようだ。この質問に対しても、Q3と同様に「情報の出し惜しみは無用」という考えで一致した。

広告主企業が掲げている目標や、担当者が追いかけているKPIを、共に達成するパートナーになることが、広告会社のあるべき姿だと松浦氏。そのためには、抱えている課題や実現したいことについて、小さなことから大きなことまで共有してもらえる関係性を築くことが重要とも話す。

「課題を言語化できていなくても、仮説の状態でも、優先順位がついていなくても構いません。課題を感じていることは何でも伝えていただき、仮説を検証したり、課題を整理したりするところから一緒に進めたいと思っています。課題を捉え直すこと・立て直すことこそ、戦略プランナーの腕の見せどころですから」(松浦氏)

松田氏も、オリエンを効率良くスマートに行う必要はなく、ありのままの状況を伝えてほしいと話す。例えば、「現在の課題(As Is)」と「なりたい姿(To Be)」は、そもそも社内で議論していない、議論はしたけれど明文化に至っていない、担当者レベルでは明確になっているけれど上層部と合意が取れていない、といった状態が珍しくない。まず社内で議論することが大事なのは言うまでもないが、「自分はこう考えているが、上層部はそうではなく、こう考えているようだ」といった状況があれば、それを包み隠さず共有してほしいと松田氏は呼びかける。

「プレゼンが終わって蓋を開けてみると、『担当者の課題に応える提案はできたけれど、実は上層部はまったく違う課題感を持っていた』というのは、実は“あるある”なんです。課題や目標について、社内で十分に議論がなされていないこともあれば、議論自体はしていてもオリエンでは担当者の思いだけが伝えられていた…ということもあります。決裁を通すのも僕らの仕事ですから、そのためのアイデアやロジックを一緒に考えさせていただきたいですね」(松田氏)

広告主と広告会社の理想の関係性は「パートナー」であり「共犯者」

「広告主と広告代理店が目指すべき理想の関係性」に関する質問も、数多く寄せられた。クライアントとエージェンシー、単なる受発注の関係ではなく、ビジネス成長をともに実現する関係性とは、どのようなものだろうか。

Q. オリエンで広告主側が大切にすべきスタンス(姿勢・心構え)
→A. 「通る提案」ではなく「良い提案」を通す覚悟を持つ

広告主が「覚悟を持つ」ことが、オリエンを成功させ、良い提案を受けるための条件だと松田氏は力を込める。もう少し具体的に言うと、広告会社から「通る提案」ではなく「良い提案」を受け、それを社内で通そうという、広告主の覚悟が必要なのだという。

「良い仕事ができるとき。それは、僕らとクライアントが、本質的に良い企画を実現するために“共犯者”の関係になれたときです。セミナー冒頭で『コンペから良い提案が生まれる可能性は低い』と話したのは、コンペについて『複数の広告会社から一度にアイデアを集めると効率が良い』とか『出てきた案の中ではこれが一番、と上層部を通しやすい』といった捉え方をしている広告主の方が少なくないからなんです。アイデアを選ぶコンペでは、『この広告会社と、覚悟を持って一つのことをやり切ろう』という前提に立ちにくい。一方の広告会社側もコンペで通る案を考えてしまいがちですし、結局のところそれが採用されがちなのも実情です」(松田氏)

Q. 広告主と広告代理店が築くべきパートナーシップは?
→A. 双方がポジティブな情熱を持ち、刺激し合える関係

広告主と広告会社が「批判し合える」関係になることが、良い仕事につながっていくと松浦氏。特に外資系広告会社の担当者は、広告主以上に企業・ブランドのことを考え、「このやり方では絶対ダメです!」と率直に言える関係性を築いている人が多い印象だという。広告主企業の社員と同じくらい情熱を持って思考・行動する「延長したチーム(Extended Team)」になることが、広告会社の理想だと話す。

「広告主企業の担当者の方が、ビジネス課題や消費者インサイト、バリュープロポジションなどをしっかり考えてきた上で、『これを与件だとは思わず、ジャンプ台にして考えてください』と言ってくださったら、その熱意に応えなければと強く思います。クライアントが商品・サービスに誇りを持っていて、人や社会に貢献できると信じている――そう感じられることが、それを全力でサポートする原動力になるんです。広告主と広告会社、双方にポジティブな情熱があって、互いに刺激し合える建設的な関係を築きたいですね」(松浦氏)

松田氏もこれに同意し、先ほど触れた「覚悟」は、広告主と広告会社の双方に必要なものだと改めて強調した。

「先ほどもお話しした通り、広告主と広告会社の理想の関係は“共犯者”に尽きます。広告主は、良い案の実現を阻む雑音をシャットアウトし、上層部を説得する覚悟。広告会社は、広告賞を獲りたいという雑念を捨て、ビジネス成長のための最善策をクライアント以上に真剣に考え実現する覚悟が必要です。『ビジネス成長』という一つの目的を達成するため、それぞれがあらゆる障壁を突破する覚悟を持ったとき、真の“共犯者(パートナー)”になれると感じます」(松田氏)

オリエンは、効率良くスマートに行う必要もなければ、「わからない」「決まっていない」ことを取り繕う必要もない。企業・ブランドの現状の課題を共に背負い、中長期的な目標を共に追いかける、覚悟と情熱を持つパートナーを見つけることが肝要だ。

そのためには、広告主側も覚悟と情熱を持ち、それを広告会社側に伝える必要がある。自社・自ブランドについて知っていること・考えていることをありのまま共有し、コミュニケーションを重ねることを惜しまない。その態度こそ、広告主と広告会社のパートナーシップの始まり、オリエンに最も必要なものと言えそうだ。

第2部「ラボ」にて、参加者から寄せられた質問

セミナー後に行われた第2部の「ラボ」では、イベントに参加した会員からさまざまな質問が寄せられ、登壇者と意見交換を行った。ここでは、会員から寄せられた質問の一部を抜粋して掲載する。

「情報も伝え、制約も伝え、自由度も持たせたうえで、期待を超える提案が出てこない場合、どういったことが必要だと感じますでしょうか」

「施策のパフォーマンスを最大化するためにクライアントからやってほしくない、言って欲しくない事は何でしょうか」

「長年続いているブランド(消費者の半数以上は認知しているブランド)と、新しいブランドにおいて、オリエンで伝えて欲しい情報の違いはありますでしょうか?」

「表現したい広告の背景にある当社の理念・想い・こだわりを伝えきり、深く理解していただくのが難しいと感じます。どういったことを意識してお伝えすることが効果的でしょうか」

「ブランド育成や成果を得るには長期的な視点も必要かと思いますが、提案いただくプロモーションがすぐに成果として表れないこともあります。そういった場合、経営陣をどのように納得させればいいか、アドバイスをお願いします」

「登壇者のお二人がクライアント側に入り、エージェンシーや制作チームにブリーフをするプロジェクトもあるかと思います。その際に、本日お話しいただいた内容以外で、意識されていることがあれば教えてください」